Inside of my head

音楽、映画、日々のことなど雑感

Life of Pi

映画"Life of Pi"を観ました。ネタバレを多分に含む感想なので畳みます。

 そもそも見た切っ掛けは、公開当時かな、とても話題になっていたから。

調べてみればアカデミー作品賞を含む複数部門で受賞だそう。

 

見終わった最初の感想としては、「ミレニアル世代が好きそう」だった。

非常に今の世の中受けするだろうなと。

莫大な制作費が話題のハリウッド映画みたいなものすごい器物破損とか爆破映像とかはないんだけど、すっごいお金掛かってんだろうな~という美しいCGとか、すごく2010年代ウケ良さそう、と思ってしまった。

異国の文化、旅、少年の主人公、映像美、宗教。

その「ミレニアル世代受け」感と、リアルとシュールレアルの配分が、なんとなく「グランド・ブダペスト・ホテル」とか、小説「アルケミスト」を思い出させた。

それから、わかりやすく「信じるかどうかは君次第」と最初に提示されていること。この辺もなんというか、最近の潮流だな~~という感じ。

ありがたいけど残念だったのが、後半も後半に「この話がメタファーだとして、実際の人間にした場合…」みたいな、解説が本編に組み込まれている点。

パイが実際に保険会社に「人間4人でこういことがあった」と説明した話を小説家が聞き、「シマウマ、オランウータン、ハイエナ、トラをそれぞれ人間に例えたらそうなるね」というようなことを言うのだけど、そこは観客がちゃんと考えなきゃいけないのでは?と。まあ、多少「コック」として保険会社に説明された存在とハイエナ、「パイの母」として説明された存在とオランウータンなど少し違いがあるので「人間に例えたらこんな残酷な話になるんだよ!」というメッセージを間違いなく伝えるためにそうしたのかもしれないけど。

それで、その人間バージョンの話もした後、パイは「どっちの話が好き?」と訊く。

小説家は「トラの方の話」と答える。パイは理由は尋ねない。

実際観客の多くはトラの方と思うだろうけど、私もそうだったけど、その理由は「その方が残酷じゃないから受け入れやすい」であり、その甘い考え方はリチャード・パーカーに軽率に近づいた幼少期のパイとほとんど変わらないのではと思った。

 

逆に好きだったところが二つ。

彼は、旅全体を総括して「意味などない」と言う。起きたことは起きたことで、意味はないと。神様を信じている(ちょっと不思議な信仰の持ち方だけど)のに、彼は点と点を繋げて星座にするみたいなことはしなかった。

嵐の中、「僕はあなたの器(vassel)です。僕は全てを受け入れ、全てをあなたに捧げます」といったようなセリフを神様に叫ぶ所がある。多分、そういう信仰をしている人は起きたことに意味など求めないのではないかと思った。全ては神の御心であり、人間には計り知れない、みたいな。

もう一つは、最後別の奥さんを娶っていることを「ハッピーエンドとするかは君(作家)次第」と言うところ。冒頭に続きまたしても「君次第」なんだけど、それはこの映画のテーマの一つなんだろうなと強く感じた。前述の「意味がない」を考えても、彼の話は飽くまでフラットで、その解釈や意味付はパイ本人によっては何もなされない。それは彼が受身だとか考えることを放棄しているとかではなくて、所謂「考えさせる映画」ではないけど「考えて欲しい映画」なんだろうなと感じた。

 

あと三つ、すごく印象的だった部分。

恋人のダンスの意味で「神の愛は森に隠れている」という振り付けを踊り、彼女は一人だけ最後に蓮の花を表すジェスチャーをしていた。それをパイが尋ねるシーンがある。それはそのまま、食人樹の島に繋がっている。彼が夜中に剥く花は蓮の形であり、その中に人間の歯があったことから彼はその島全体が食人であると気付く。そしてその島に立ち寄ったこと、食人樹に気付いたことを「神は見守っていてくれた」と表現する。恋人のダンスはまるで一種の予言のようだ。

二つ目は、ものすごく幻想的な点。夜はいつも超常現象みたいに空や海が輝いているし、海ってそんな波ないのってくらい凪いでいる夕暮れとか。最初のヒンドゥー教の神話でも「口の中に宇宙が広がっていた」という話が取り上げられていたけど、宇宙との繋がりというのを描きたいんだろうなあという気がした。宗教を考えるとき宇宙は避けて通れないからかもしれないけれど。でも実際にパイが酷く傷つくのはリチャード・パーカーとの呆気ない別れであり、宇宙だの宗教だの、そういうものは彼を取り巻いていても感情に決定だを与えることはないんだよね。面白いなあと思った。

3点目は音楽の良さ。東南アジアっぽさ溢れる音と、大洋を思わせるリズム。単純にアンビエント的な音楽として聞いていて癒されそうと思う美しさでした。

 

最後に、感銘を受けた点。

最近ハリー・ポッターを見直していても思ったことだけど、「思考を止めない」ことのすごさ。就活で商社とか見ていた際に、社員の方によく「脳が汗をかくまで考えろ」とか「とにかくいつでも考え続けろ」みたいなことを言われたんですが、彼らは素で実践していてすごい!と。

自分だったらあの状況、諦めて死んじゃうかも、と思うところで恐れながらも冷静に思考を巡らせて行動するのが、凄い。

人間の生存本能も侮れないと思ってるので、自分も生命の危機に瀕したらもう脳細胞フル回転でなんかするのかもわからないけど。

 

映画を通じて感じ取ったことは、BUMP OF CHICKEN藤原基央が言っていた「世の中君の思うように映るんです」という言葉。一字一句合っているかは自信がないけれど、そんなような感じ。

全ては主観であり、なんの確証もない。あなたが、わたしが、信じるものがそれぞれの世界なんだと。

 

最近の流行りと書いてはしまったけれど、映画として普通に見て満足感があります。

話は面白く意味深そうだし、映像は美しく音楽も素晴らしい。

「映画」というスペクタクル性?エンターテインメント性?を求める人にはすごくお勧め。